b)研究領域毎の研究活動の内容と水準の質的向上に関する取組(その1)                    

         

○ ナノ構造・組織化制御金属材料

 

@ 金属ガラスや過冷却金属液体に代表されるナノ構造・組織化金属材料を開発する。

 

平成16年度

・低磁歪特性のCo基軟磁性バルク金属ガラス、5500MPaの超高強度を示すCo-Fe基バルク金属ガラス、100Kを上回る大きな加冷却液体を持つCu基バルク金属ガラスの創出に成功した。

平成17年度

    ・高い過冷却液体の熱的安定性を有するCu-Zrガラス合金において冷却速度の制御によ

り、1860MPaの高強度で50%以上の超大塑性伸びのナノ結晶粒子均一分散型のバルク金属ガラス複合材料を合成した。

・ガラス合金の高純度ガラス単相化技術を開発し、自由体積の制御を試みた結果100MPam0.5以上の破壊靭性値と1GPa以上の疲労眼を有する極めて強靭なガラス合金の開発に成功した。

・低合金高炭素鋼マルテンサイトで生成するナノ炭化物の非平衡―平衡遷移挙動のナノプローブEDS及び3DAP解析により、添加元素による時効軟化抑制効果を解明した。

・水焼入れ法により強磁性Fe基バルク金属ガラス合金としては最大の7.7mm径を実現した。また、従来のFe基アモルファス急冷合金と比較して、本質的な構造の均質性によりFe基金属ガラスの方が低い保持力が得られることを見出した。

・作製不可能と思われていた鉄族アモルファス合金FeBSiCoBSiおよびNiBSiのバルク金属ガラス化に成功した。新規開発したCoFeBSiNbバルク金属ガラスは破断応力が4000MPaの高強度と、磁歪がほぼゼロの超軟磁性特性を示した。NiFeBSiNbバルク金属ガラスの破断応力はNi基合金では最高の3800MPaを示した。FeGaPCBSi金属ガラスの最適化を行い、高価なGa元素を含まない直径4mmの新規FePC系バルク金属ガラスを作製した。この金属ガラスは1.43Tの高飽和磁化と2A/m以下の低保磁力の優れた軟磁気特性を示した。

   平成18年度

  ・工業材料として重要な後期遷移金属を主要構成元素とするバルク金属ガラスとして、高い機械的性質、大きな弾性伸び及び優れた耐食性などを示すFe基、Co基、Ni基及びCu基のバルク金属ガラスの開発に成功した。特に、Fe基及びNi基バルクガラス合金は、応用製品として実用化を達成した。

B以外の希少金属元素を含まず、かつユビキタス元素からなるFe半金属系強磁性バルク金属ガラスを開発した。この合金は、強磁性Fe基合金としては最高レベルの広い過冷却液体領域を持ち、また、Fe以外の金属元素を含まないため、高い磁化、非常に優れた軟磁気特性、さらには最高レベルのガラス形成能を有する。また、低材料コストで製造が容易であることから、工業材料として高い可能性を持つ。

Cu-Zr金属ガラスのもつ巨大な延性の起源が、せん断帯中のナノ結晶化であることを電子顕微鏡により明らかにした。

 

A 生体材料などの新たな材料分野への進出に努める。

平成16年度

       ・生体材料学研究部門の新設を決定した。

・生体用バルク金属ガラスとして、Niを含まないPd基バルク金属ガラス及び細胞との反応に適したポーラス状Pd基バルク金属ガラスを開発した。

・細胞毒性のない元素の組み合わせと加工熱処理により、生体インプラント用チタン合金としては世界最高の低弾力性・高強度化を達成した。

・点欠陥制御工学に基づいた金属材料のナノ組織制御技術の開発を進め、これによって得られた金属材料のナノ表面形態を利用し、機能性生体分子とのハイブリッド化を試みた。さらに、高耐食性強靭化フェライト系ステンレス鋼のナノ組織制御と材料特性について研究を進めた。

平成17年度

・生体材料学研究部門を設置した。

SPS法にて低温・高圧印加焼結を施すことで、アナタース構造のバルクTi02の成型に成功した。また超親水性に優れたボロン添加Ti02材をイオン注入法とゾルゲル法で作製し、その結合状態をXPSにより明らかにした。

・窒素微量添加による安価な新規弾性チタン合金の特性の熱処理による最適化を行った。

・相の相安定性とマルテンサイト変態を利用したチタン合金として新規な加工プロセスを利用して、50GPaの低弾性率で1000MPaを超える高強度なTi-(Nb,V)-Sn合金を開発した。

・生体インプラント用チタン合金上にマグネトロンスパッタ法によりアパタイト膜を作製し、生体適合性に優れることを実証した。

・精密鋳造技術による金属アレルギーの懸念の無いチタン製トランペットマウスピースの開発に世界で初めて成功した。

平成18年度

・生体為害性の指摘のない合金元素から成る生体用チタン合金の単結晶化により、バルク生体用金属材料として最も低い弾性率35GPaを達成した。

・モノマー含浸・重合による生体用ポーラスチタン/高分子複合体製造法を確立した。

CVDにより初めてハイドキシアパタイト膜の合成に成功し、優れた骨伝導性を有することを実証した。

 

B X線・電子線・中性子線回折、中性子散乱、分光、イメージング技術を実現する。

平成16年度

・スピントロニクズ材料の評価のための世界最高磁場の強磁場X線回折装置を開発した。

・材料のナノスケールでの不完全性について、SiGaNSiGeZnSeの転位の運動特性及び転位と不純物との欠陥反応の基礎過程についてX線、電子線、赤外分光、発光による解明を進めた。また、転位・不純物酸素反応への磁場の影響という新規現象を見出した。

・日本原子力研究所に保有する2台の装置のうち、2軸型単結晶回折装置を新しく3軸型分光器としてリニューアルした。また、中性子粉末回折装置の制御用コンピュータ及びインターフェイスを更新した。

平成17年度

・強相関物質の電子励起測定のために放射光X線を用いた共鳴非弾性散乱法(RIXS)の観測理論を構築した。

50テスラを超える世界最高の強磁場下でのX線分光を実現し、磁場誘起電子相転移の機構を研究した。

・材料のナノスケールでの不完全性について、SiGaNSiGeZnSeZnOの転位や欠陥の固有特性及びそれらの相互反応についてX線、電子線、赤外分光、フォトルミネセンッス発光、ミューオノウムによる解明を進めた。

平成18年度

・超強磁場X線分光によりX線磁気円二色性及び共鳴散乱測定の世界最高磁場を達成した。

・強磁場センターで開発した強磁場低温X線回折装置を用いて磁場誘起結晶変態の研究と機能性評価をを進めてきた。

その成果として、Mn-Ni-Sn化合物の磁場誘起形状記憶効果が磁場による結晶変態に起因していることをX線回折により世界で初めて突き止めた。

・日本原子力研究開発機構に保有する中性子散乱装置の強度の2倍化に成功し、さらに、中性子ビーム集光技術による高輝度化と大面積二次元中性子検出器の導入により、従来の試料に比べ体積が1/10の微少試料での中性子散乱実験を可能にした。

・金研中性子散乱装置2台が完全稼動を開始したことで、平成18年度の中性子全国共同利用者数が、のべ約100グループに拡大した。

・材料のナノスケールでの不完全性について、SiGaNSiGeZnSeZnOの欠陥固有特性と相互反応についてX線、電子線、光吸収による解明を進めた。

 

C 計算機科学によるシミュレーション実験を整備する。

平成16年度

・独自のシミュレーション計算プログラムTOMBOのスーパーSINET上での分散処理化によるナノ構造材料に関する超大型計算を実施し、さらに計算材料学センターのスーパーコンピューターシステムの稼働率向上を図った。

平成17年度

・独自の全電子混合基底法第一原理シミュレーション計算プログラムの開発とその商品化を行い、東北大ブランドの普及に努めている。

平成18年度

・従来からのスレーターによるフント則解釈の誤りを精密な拡散量子モンテカルロ法計算によって正し、磁性の根源は原子核と電子の引力が最も重要であることを定量的に明らかにした。

・超大規模第一原理シミュレーションに計算により、他では実行不可能な大きなクラスターの構造や電極を含むナノデバイス中の電子伝導特性、医療用ナノ粒子設計等を行った。