外部評価報告書
7. 付属研究施設
 材料試験炉利用施設(施設長 松井秀樹教授)

 この利用施設は,材料試験炉(JMTR)及び高速実験炉「常陽」を利用して材料照射を行うために,全国の大学研究者に解放された貴重な研究施設であり,またアクチノイド元素を扱うことができる実験棟を所有している。現在まで長年にわたって,材料照射技術の開発,照射効果の物性測定や核燃料の処理に関する研究が行われ,また全国の大学との共同研究及びそのサービス業務を通して,照射研究・技術に多大な貢献をしてきた。しかし,最近は内容的にマンネリ化したところが感じられるし,また国内外の科学技術の全体的な流れに左右されるところが大きく,独自性のある施設として継続していくためにはしっかりした将来計画をたてる必要があると思われる。今後は設備を核融合研に完全に移管する計画のようであるが,材料照射とアクチノイド科学の実験施設としての将来計画を立て,金属材料研究所の施設として存続を検討してほしいという要望は強いと思われる。そのための対応策の具体的立案が望まれる。

 核融合研にこの施設が移管された場合,同研究所が放射科学全体に目配りのきく人材を持っていないことから,一般的な材料照射とアクチノイド科学を支えるのは金研に今後とも頼らざるを得ないであろう。また金研としても金属を中心とした材料科学分野の雄たらんとすれば,材料照射とアクチノイド科学を手放すわけにはいかない。材料科学の重要なオプションを放棄することになるからである。充分な検討を望みたい。

 新素材設計開発施設(施設長 福田承生教授)

 当施設は(1)ミクロ組織制御材料合成研究部(井上教授),(2)ナノ構造制御機能材料研究部(粕谷教授)及び(3)材料設計研究部(川添教授)からなる。 よく知られているように,金研では多くのアモルファス材料について,分野の境界を越えた研究協力体勢を生み出してきた。この体勢は研究進展に大きな力となり,アモルファス自体の研究はもとより,現在では,気相凝縮制御法,液体凝縮制御法,固相反応制御法などによって作成された準結晶,人工結晶相,ナノ複合相など多くの構造・組織の研究にまで急速な展開を見せて来た。現在,本施設では,原子レベルで制御された新物質の作成・合成法の研究,それらの構造解析,状態分析,特性評価を行い,ミクロ組織制御技術の確立,新素材の開発を行っている。得られた成果は,強力Al基及びMg基アモルファス合金,高密度磁気記録材料,金属人工格子膜,超高耐食材料,機能性単結晶材料など数多くのものがある。また,これと平行して,この種の材料の将来の汎用性のため,コンピュータ・シミュレーションによる材料作成・開発の高度化,迅速化を試みている。

 このように,この施設はわが国における新素材開発の核になり得るもので,単に金研の研究サポート施設と考えるべきではなく,専任研究者・技術者の配置,予算の確保を考えて,世界における新素材の中核的共同研究施設に発展させるべきであろう。

 強磁場超伝導材料研究センター(センター長 本河光博教授)

 金研の強磁場施設はハイブリッド磁石を中心とした強静磁場施設で,世界有数の強磁場施設として,また強磁場磁石用の超伝導体の研究施設として多くの実績をあげてきた。昨年行なわれた外部評価でもその実績は高く評価されている。この様な施設は世界でも数少なく,またその重要性も益々増えると思われるので,金研にとっては貴重な存在である。特に他の同様な施設,例えば米国フロリダやフランスのグルノーブルの強磁場施設,に比べて極めて小人数低予算でこれだけの成果を上げてきた点は驚嘆に値する。最近の成果としては高温超伝導電流リードの開発,ヘリウムフリー超伝導磁石の開発,磁気浮上させたガラスの溶解や水の凝固等があり,独創的研究開発に成功している。施設長の本河教授,渡辺,淡路助教授はじめ所員の努力は大いに認められるべきである。そしてまた所内のいくつかの研究グループとの共同研究にも注目すべきものがある。例えば佐崎元助手の生体高分子の強磁場下結晶生長など,ユニークで興味ある成果が出ている。化学分野の研究がもう少しあってもよいとの印象がある。

 しかし既に強磁場に関する外部評価委員会によって指摘されたように将来となると大きな問題がある。第一は電力設備が老朽化して早急に更新する必要がある事,特により高度な測定をするために磁場のノイズを減らす必要があること,第二は強磁場を常時利用してきた教授の退官(本河,深瀬)に伴なって所内の支持が弱まることである。強磁場を常時利用する講座が3,4に増えないと付属研究施設としての意味がなくなってしまう。そこで将来の選択肢としては三つの方向が考えられる。一つは強磁場を利用する材料研究を金研の重点研究として,数講座を投入すること。第二は共同利用センターとして拡大発展させること。しかしその場合現在の所員の数では現在以上の利用者のサービスは不可能である。もし共同利用センターとしての存続を目指すならば人員と予算を倍増する位のテコ入れが必要である。第三は施設を縮小して一講座の施設に格下げすることである。しかしその場合老朽化した設備の更新や新規の機材購入の力が落ちて世界的水準の維持が難しくなる。平成12年度で時限となり,新規のセンターとして活動するシナリオは大体見えてきたようだが,より長期的なあり方については研究所全体の長期戦略計画の中でのこの施設の将来が検討されるよう希望する。


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