外部評価報告書
5. 教育活動
 学生に対する教育

 金研の教官による授業は,世界最先端の材料科学研究及び材料技術動向を大学院生や学部学生に紹介するという意味で,一般の研究科や学部の教官とは異なった角度からの教育が可能であるはずである。しかし,金研の教官の本務が研究活動にあるため,研究活動に重点を置き,学部学生の教育はあまり重視されていないようである。ところが,有能な若手研究者の育成は国家の重要問題であり,特に中国を除いて世界的に物理系の研究者の不足が懸念されている例からも明らかなように,若手研究者の育成という立場からの大学院教育が必要である。また,教官による教育活動は当研究所の研究活動の活性化と無縁ではありえない。研究所では大学院生は教育の対象であると同時に研究上の戦力ともみなされるからである。その場合には質の高い大学院生が必要とされるが,現状ではその確保は容易ではない。東北大学の枠を越えた他大学の学部学生や高校生へのPR(魅力的な授業や講演)又は研究所公開等を積極的に行うこと,Post Doc 制度,Research Assistant 制度,奨学金制度などの充実,施設や設備の改善,卒業後の研究環境の保証などが必要である。現在,研究所の院生は工学研究科又は理学研究科を通して配属されており,研究所の設置目的を理解した,質の高い院生が受け入れられているとは言い難い。しかし,金研独自で大学院を持つかどうかについては否定的な意見のあったことを付記する。金研だけで大学院卒業に見合う総合的教養をつけさせるのは難しい,との判断である。教官の教育活動への負担増,事務量の増大などの問題もある。

 留学生の受入れ状況

 外国人留学生の人数は,毎年,理学研究科所属は博士課程前期,後期とも0-2名であるが,工学研究科は前期が数名,後期は20名を超す。工学研究科博士後期課程の場合,外国人留学生と日本人学生の比は,ほぼ1対1である。このように,金研が工学研究科後期課程で外国人留学生を数多く受け入れてきた実績は評価に値する。学生数などに関する数値は,金研における理学系と工学系の部門数が1対2であることから,ほぼそれに見合う結果となっている。しかし,理学系の博士後期課程に外国人留学生がほとんどいないことは,基礎と応用の両面から新材料の創出を目指す金研としてはアンバランスにみえる。先端的研究は基礎研究の広い裾野があってこそ成り立つ。基礎研究(主として理学系)を指向する優秀な若手外国人が金研に集まるような仕掛けを作ることも金研の国際化にとって重要な課題であると思われる。

 社会人に対する教育

 受託研究員,研究所等研究生,社会人大学院生等として,毎年20名以上の社会人を受け入れていることから分かるように,社会人に対する教育にも積極的な姿勢がうかがえる。しかし,その成果は分かりにくい。また,社会人の受け入れ数は部門により著しく異なっており,社会人をほとんど受け入れていない部門もある。
 このほか,金研では,公開講座として大正11年から現在まで,毎年8月に「金研夏期講習会」を実施しているが,これは歴史と伝統のある講座で,これまで多くの企業等の若手研究者や技術者が参加しており,産業界との連携に大きく貢献しているものであり,今後もさらに発展することを期待する。
 また,金研では,毎年「研究所一般公開」を実施しているが,先端材料の研究成果等を通して,子供達に科学を知ることのおもしろさを,また一般人にも,科学が社会において大切な役割を果たしていることを分りやすく伝えることに努力していることは,高く評価したい。これが,子供達のいわゆる「理科離れ」を防ぐ一助になることを期待する。
 社会人に対する教育等に関して努力している姿勢は高く評価できるが,今後,大学の付置研の研究に対して,これまで以上の説明責任,社会貢献が強く求められるようになるので,研究成果の効果的な公表の仕方,公開の仕方についてさらに深く検討する必要があると思われる。


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