外部評価報告書
4. 研究活動
(1) 全体展望
 現在の金研の研究活動状況は総体的には極めて活発であり,多数の研究者が各界の指導的立場にある。国内外の研究者,研究機関との交流も活発である。唯,最大の問題は華々しく活躍する研究者も多い一面,生産性の低い部門もあって,成果が一様でない点である。例えば論文引用回数に教授のあいだで100倍の差があるのには驚かされる。もちろん部門の性格によって引用等の回数に自ずと差があるので比較は簡単ではなく,後述するような次世代の芽をひそかに育成中の研究者が引用度を気にする必要もないが,現在見られる100倍の差はそれではとても説明しきれない。教授を罷免することはできないにせよ,生産性の低い部門から高い部門に助手等を移す様な適切な手段も考えられて然るべきかと思われる。また民間移行に伴ない給料に差をつけることも可能になれば心理的影響はまことに大きく,劇薬として利く可能性がある。

 外国人の受け入れに関しては,未だに中国等に強く偏っており,欧米からの受け入れが少ない。金研が世界的COEになる為にはもっと欧米からの客員を増やす必要がある。これは金研の成果,優秀性を外国に広く知らせる上に非常に有効である。また研究の国際性を学生や若い研究者に肌で理解させる上に欠かせない。ただ所内に英語で日常歓談できる雰囲気がないと欧米からの若手の第一級研究者群の長期滞在はでないであろう。その為には核となる少なくとも10人程度の常任ないしは長期滞在の英語国外国人が居ることが必要である。現在,構想が進んでいる“先端材料国際研究センター”は,この意味で高く評価されるべきものとして期待される(最近新設された外国人短期任官制度にも期待できる。)。

 また,研究内容についてだが,金研の研究の多くがその内容は程度が高く,それぞれの分野でリーダー的役割をしていると思われる。しかし,その研究内容は時流に乗っているものが殆どで,時流を先取りして次世紀の核になるような研究が殆ど見られないように思われる。また,金研の枠を越えるような大きな研究の芽生えも見えない。たとえば,次世紀の新分野になり得る材料科学における非線形現象や臨界現象の解明と応用をまともに取り上げ,新しい学問体系を構築しようとする意欲等は残念ながら聞くことが出来なかった。確かに,現今のごとく早急な成果を要求される場合には,リスクの大きな未来志向型の研究は敬遠されがちであろう。しかしながら,金研のごとく,リーダーシップを発揮しなければならない研究所においては,このような次の学問分野を切り開くかも知れない新しい研究が,少数の部門で良いから,行われることが大切であると考える。このような研究は,教官の研究志向にのみ任せるのではなく,金研として,研究に枠をはめるのではなく,また当面のインパクトファクターを気にすることなく,次代を担う核として配慮すべきではないであろうか? そこで最も難しいのは,そのような人材を所長が見抜く,ということである。

 研究成果の発表状況については多くの研究室は大変活発に発表が行われているが,一部に余り活発でなく,将来性も見えない研究分野もある。今後は,このような余り活発でない研究分野については,分野を変えるといったことも必要かもしれない。研究手段や研究方法が同じであっても,対象等を変えると面白い成果が期待できることも考えてみる必要がある。例えば,分析評価分野では,標準化を行うことや地元企業の問題解決に関与することで,その意義が改めて認められるのではないか(勿論,地方の公的研究機関との競合等があると思われるので,簡単には出来ないことかもしれないが)。

 共同研究の実施状況については,活発に行われていると思われる。ただし,既に共同利用研究所の項で述べたようにその成果が見えないことと,共同研究が本研究所にとって本当に役だっているかどうかについても,より透明化して具体的に検討する必要があるのではないかと思われる(独立法人化されると,個別に評価される可能性がある)。

 民間との共同研究はかなり活発に行われているように思われる。地元企業との共同研究,あるいは地元企業の育成に今以上に力を入れると成果が上がるのではないかと思われる(これは,金研の伝統であったと思うが)。米国の3M社は,かなりへんぴなミネソタ州のミネアポリス市に本拠を置くが,開発力のある会社として有名である。3M社の方にその理由を聞いたところ,地元にミネソタ大学があるのも,その理由の1つと言うことであった。これは,大学と企業との共生の例かもしれない。

 研究会・ワークショップは活発に行われていると思われる。しかし,これらの活動のインパクトがよく見えない。参加者の人数,分布(大学,公研,企業,外国等),そしてこれらの会合から何が出たかを要約したものが欲しい。

 設備の整備と運営状況については整備や運営状況に建物の狭さを別とすれば,特に問題があるようには見受けられない。ただし,研究分野を広げることを考える場合には,戦略的に設備の整備を計画する必要がある。また,今後は金属系材料の研究であっても,今以上にクリーンルームが必要とされる研究があるのではないかと思われる(例えば,金属薄膜作成や素子やセンサーの作成研究等)クリーンルームの必要性等について,戦略的な検討が必要なのではないか。


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