外部評価報告書
3. 組織と運営

(1) 研究所の規模,特に予算について

   金研はその長い伝統と大きな実績の故もあって日本有数の大学付置研究所である。その意味では優等生であるが,その規模と人員,予算について国際的な規準で見るとどうなるかを考察してみる。平成12年度の研究者(教官)数を見ると142名である。これをざっと150名と見よう。研究所の予算は約50億円であり,平成10年度歳出予算は物件費26.4億,人件費23.6億,人件費の比率は47%である。大学付置研で人件費が50%を切っているのは極めて少なく,金研はその意味でもすぐれた研究所である。

 しかし,国際的な規準で言えば,研究所における人件費は30%を切るのがメドになっている。国内でも科学技術庁(平成12年度まで)系では大体30%以下である。例を理研に取る。理研は今や大きく変化しつつあり,多くの任期制研究員に支えられた研究センター活動が多いが,大学研究所に近い旧理研の部分,今日では先導的・基礎研究と呼ばれている部分は約300人の研究者で物件費は約100億円である。金研が約150人で物件費が約25億だから,理研並で言えば金研は物件費が50億でよいことになる。これは現在の2倍である。仮に金研が50億の物件費であれば人件費が約25億として人件費の比率は1/3,つまり約30%となり,国際基準に近づく。長い慣習と予算の現実の中で,物件費倍増要求などは思いもよらぬ事であるが,健全な研究所とはどんな規模の事か,についてこのような事情はもっと広く知っておいてよい。特に独立行政法人化が進み,大学も研究所も自らの独自性を出すべく求められるようになり,研究所の優劣もはっきりしてくると思われる。金研が第一級の研究所を目指すのであれば,そのあるべき物件費は50億,ということを所員の常識としたい。もちろん,研究者数が約150人という現状を前提としてのことである。科学研究費をはじめ,競合的資金獲得の状況はかなりのレベルにあると判断されるが,なお一層の向上を期待する。

 金研の資料によれば,教官一人あたりの科研費申請件数は約1.0件である。東大をはじめとする旧帝大系においては,この値は大略1.35‐1.50であり,これに比較して金研は低すぎる。この数字は研究の活性度を比較的よく反映すると言われる。金研に助手が多く,助手の申請件数があまり多くできないことを考慮しても低すぎる。教官のうち,教授・助教授は複数件申請しているであろうから,申請をしていない助手・講師がかなりいると考えざるを得ない。この点は,教官の年齢構成に示されている講師,助手の高年齢化からも伺うことが出来る。この点は過渡期の現象で,今しばらくすれば解決するかもしれないが,やはり出来るだけ早い改善を模索すべきであろう。 

 今後,公的研究機関や大学の独立法人化が進められことになっている。公的研究機関について,基礎研究及び応用研究(知識基盤)の2つのカテゴリーがあると思われる。これに関して,参考までに,ドイツの科学技術関連の研究組織につき述べておく。ドイツでは,基礎研究はマックス・プランク・インスティチュート,応用研究はフラウエン・ホファー・インスティチュートの,2つの研究機関で行われていると聞く。フラウエン・ホファー・インスティチュートでは,独立採算制であり,研究費の1/3程度は国からの研究費,1/3は国の個別の省庁からの依頼研究費,1/3は外部の企業等からの依頼研究費と聞いている。マックス・プランク・インスティチュートについては,マックス・プランク・ゲゼルシャフト(財団)を通じて国からの研究費の比重が高い。今後の本研究所の運営等にも関連して,ドイツのシステムにつき検討しておくことも役だつのではないかと思われる。勿論,米国やイギリスなどのヨーロッパの制度なども参考になると思われる。特に,イギリスは研究費配分等について,かなりドラスティクに変更し,戦略的かつ実績を重視した配分をして成果が上がっていると聞く。このような外国の制度を参考に,国が科学研究制度を改革する可能性があるので,予めこうした状況を知っておくと,対策や提言が出来るであろう。

(2) 部門構成と研究の姿勢

 研究所の構成についてはパンフレット,東北大学金属材料研究所(2000)によれば図−2のようになっている。

    図‐2  機構図(省略)

  この構図にはこれまでの伝統と最新の研究フロンティア事情を考慮した周到な配慮がうかがえる。各部門の名称にも行き届いた目配りが感じられる。ただし,研究室の名前が継続的に使われており,これは歴史的な経緯でそうなっていると思うが,一部研究内容と研究室の名前が違っているところもある。文部科学省との関係で,簡単には解決しないことかもしれないが,何らかの機会に見直しをされた方がよいと思われる。

 個別の研究分野に関して部門分けを見ると,炭素系の材料についての研究部門が少ないように思われる。炭素系材料には,未知数の魅力があるように思われるので検討されると良いのではないか(世界的にも,かなり競争の激しい分野ではあるが)。また,既に計算科学的手法による材料の研究活動がなされていて良い業績を上げておられるが,企業等の持つ課題の解決に使いやすい計算コード等があると,産業界にも役だつと思われる(啓蒙活動をすると,認知度が上がるのではないかと思う)。また,世界的にも,材料に関するデータ・ベース作成がプライベート機関でも行われているようである。材料分野では,データの整備が研究開発に占める比重が大きくなるのではないかと考えられるので,これに関して外部の状況も勘案して,検討することも必要かと思われる。

 ところで,金研では,全国の主要大学,研究所が近年小講座制から大講座制へと移行してきた中で,小講座制を守っている数少ない研究所である。大,小それぞれにメリット,デメリットはあるが,金研が今日,小講座制を保持し得る最大の理由は,教授,助教授,助手が約1,1,3の比を保っていることにある。昔は1,2,4程度であったが,定員削減や振替を経て今日の比率となっている。一方,他大学では当初が1,1,2であったから今日では1,1,1がやっとであり,これが小講座を維持できない大きな理由となっている。

 このように見てくると金研の小講座制は「恵まれた遺産」という面もある。したがって,その恩恵をフルに活用しながら,小講座制の欠点,すなわち閉鎖的人事による研究力の萎縮におちいることなく,弾力的な運営を強く心がける必要がある。

 この視点から,具体的な提案をしたい。それは図−1において研究部の4大グループにある程度大部門的な運営を導入してはどうか。つまり,今日では名目だけに近い材料物性,材料設計,物質創製,材料プロセスの4研究部にそれぞれ研究部長を置き,部内の横の連携を重視した研究領域を推進することである。小講座制では,教授の停年退官時に芽生えていたユニークな芽も,新教授の着任で枯れてしまうこともある。現にこのような例も数ヶ所あると思われる。このようなことがないように目配りする人物はこれら各部の部長であろう。また一方では,極めて重要,かつ将来展望のある研究が,一講座内で生まれた時,機を失せずこれを数講座が協力して大きく成長させることも非常に重要である。本多光太郎,増本量,増本健氏らの研究では,このような周辺からの協力が大きく物を言ったという伝統もある。現時点で言えば,井上所長のLiquid Alloyなどは正にこのような手法で巾広く大きく発展させるべきものである。増本健氏のアモルファスにつづく金研の顔となりうるであろう。このような横断的な研究を育成する気迫と組織上での配慮を望みたい。

(3) 共同利用研究所としての金研

  金研は昭和62年(1987年),全国共同利用研究所に改組された。これは金研の前進的大改革であって,これを機に研究所の活性化と共に当該科学,技術分野への貢献の拡大は高く評価される。金研の透明性も高まり,わかりやすい顔も広がっている。  
 共同利用推進のための組織は図−3に示されている。よく組み立てられ,機能していると見られる。

  図‐3  委員会組織(省略)

 この共同利用システムに対し,評価委員会におけるコメントは以下の通りである。

(a)運営協議会は所外のメンバーにより組織され,詳細な議事録も作成,公表されていて透明度は高いが,他の共同利用委員会の組織,及び運営についてはあまり明かで はない。これらに所外委員は組み込まれているのか。いるとすればその人選はどのようにして行われているのか。

(b) 第1回の外部評価委員会報告書の5頁に,共同利用が自閉的でなく開放的であるべ きこと,そのためには共同利用申請についての採択率が100%というのは好ましくな い。もっとオープンな形で,つまり事前協議でのみではなくより客観的な採択方式が 取られるべきことが述べられているが,これの改革は進んでいない。もっと前向きに 対処されたい。

(c) 外部ユーザーの意見として評価委員の耳に届いているものを一,二紹介する。外部 から見ると,共同利用はどうもまだ顔のつながりが実質的に大事なようであるが, もっとオープンにしてもらえないか。例えば,共同利用全体の共通窓口があり,常時 FaxやEメールで申請できるようにしてほしい。それがその希望に応じて関係の深 い共同利用サブコミッテーに流れ,そこで採否が決定されるようになれば有難い。勿 論,具体的な研究内容と段取りはそれからの所員との協議で十分連絡を取ることは必 要であり,関係ある人達が相談に応ずるようにすればよい。

(d) 金研のPR誌を見ると,所内研究者の研究内容と成果はわかるが,所外から来た共 同研究者がどんな研究をやり,どんな成果を出したかが出ていない。共同利用研とし ては片手落ちではないか。所外の利用者が出した特に重要な研究成果,例えばベスト テンを選び,PR誌に載せるといった努力も期待したい。そうでないと共同利用利用 研,つまり所内研究者が共同利用に来た人達の研究を利用して所内研究者の成果を高 めていると誤解される恐れもある。
 このベストテンを選ぶことは別のメリットもある。それは,所内研究者の研究領域 を越えた研究が持ち込まれる場合に,所員がその核心部,重要性を適確に判断するこ とが求められるからである。これは所員の視野を広め,評価能力の向上につながる。 視野の狭い研究者が増えている今日,この取扱いは所員の資質向上にも貢献するであ ろう。

(e) 新しい発見・発明からは,重要な特許が生まれる可能性が高く,基礎研究の分野に おいても研究成果の特許化は今まで以上に進めていく必要がある(外国の機関が重要 特許を取得すると,国家的な損失につながるから)。

(4) 建物,研究面積

 前出の活動報告書(1997年度〜1999年度)第5章本研究所の要望(5頁)を見ると,8項目の要望すべてが建物についてであるのに驚かされる。逆に言えば金研の当面する最大の課題が建物問題であるということであろう。文部省基準の建物面積も活動的な研究所にとって充分とは言えないのであるが,その基準面積の更に74.7%しか現有ではないというのはたしかに重大問題である。東北大学が片平キャンパスを手離し,青葉山のゴルフ場跡に移るという大計画が立往生していることに最大のネックがあるが,これが早急に決着しないと金研全体の活動力に重大な影響があることをうれうるものである。東北大学全体に対して早い解決を望むものである。  

 しかし,これに対して金研が手をこまねいていてよい,ということにはならないのではないか。大学の独立行政法人化が進むと,大学はより多様化への対応と,対社会との結びつきに深くかかわることを求められるであろう。例えば,思考実験として,大学北門以南を青葉山に移転するとし,金研が現在地に残ったとした時,この地域は東北大学のショウウインドー的役割りを果すべく,格段の努力が要請されよう。その中核として金研は仙台市民にどのような貢献が出来るのか,例えば金属のあらゆる知識と技術が集約された世界一の金属総合博物館を持つ,などが考えられる。  

 東北大学の青葉山移転がいま一つ市民の関心を集めていない理由の一つは片平の跡地に「東北大学よりも魅力的な計画」が見えないからである。これは東北大学に限らず,日本中の大学の移転問題で起きている課題であり,大学は自分の事ばかり考えて跡地と周辺社会の事を考えないといわれるゆえんである。この点で西欧の大学が地域と密接な関係を持って進んでいるのと大きく異なっている。日本の大学も独立行政法人化に際してもっと社会とのきずなを深める必要があろう。その目で見ると,片平地区,現在の金研,将来の金研というフレーズは,暗示的なキーワードとして浮上する。


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